彼の宣言
彼との出会いは彼が中学1年生の夏休みでした。入塾して間もなくは、授業中におしゃべりしたりして集中力が続かず、どうにかして勉強に集中させなければいけないなと思っていました。お友達と学校以外の場所で一緒に勉強できることがとてもうれしいといった感じでした。授業中におしゃべりをして私から注意されることも少なくなかったのですが、いつでもとても素直な目をしていたのを覚えています。その授業中のおしゃべりもしばらくすれば徐々にですがなくなっていきました。
学校でのテストの成績は入塾してすぐに見せてもらうようにしていますので、彼の成績も覚えています。全教科100点満点中の30点位でした。点数自体はおせじにも決して高いとは言えませんが、どの教科もすべて30点位というふうにムラがなかった事と、指導をしていて理解から定着までのスピードが若干ですが速いと感じたので、ある程度までは短期間のうちに伸びていくだろうと判断をしていました。彼はとても塾を楽しんでいましたので、勉強自体も楽しみの一つとして意欲的に取り組む姿勢があり、塾の中ではよい点数のグループではありませんでしたが、自分は自分という感じで筆を握っていました。
入塾から3ヶ月位がたち、厳しいことで有名な野球部と両立しながら勉強をしてはいましたが、成績は、私が最初に判断し予測したようにはなかなか伸びませんでした。彼は英語には興味を持っていたので英語のテストは点数が以前よりはとれるようにはなりましたが、全体的あまり成績が伸びてきませんでした。
そんな彼の成績がしっかりとした形で伸び始めてきたのは2年生の7月の期末テスト位からでした。つまり入塾して1年が経っていました。それまでは、ある程度の良い点数を取ることはあっても、細かな質問を私がするとちょっとした基本的な間違いをすることがありましたが、この7月のテストの時は、細かな部分がしっかりと理解できているようでした。
そうして、7月の期末テストが終わったころでした。ある日、彼は、私に言いました。「僕、済々黌に行きます」そう宣言したのです。
私は、彼がいくらその前の月のテストで成績が伸びたとはいえ、あまりに難関すぎる高校の名を口にしたことにびっくりしましたが、私は言いました「行きたいなら行きなさい。」
あまりにそっけのない私の言葉だったかなと少し感じましたが、あとあと考えればそれでよかったのかなと思っています。その高校がどんなに難しい高校なのか、今君の偏差値はこれこれだとか、どんな勉強をこれからしていかなければいけないのかなど、あまりに子供にとって現実的な話をするにはタイミングがあると思うのです。もしあのとき、今までのデータを見せて、「君は今ここのラインだから。希望している高校に合格するためには~~」などと話していたら彼は自分は無理だと早計に判断してしまいかねません。
今でも実力よりかけはなれた志望校を口にする生徒がいますが、私は否定も助言もしません。「行きたいなら行きなさい」余計なことは言わず、ただ真剣なまなざしでそう伝えます。






